RMUさん (27)
2008/02/25 09:13
場面によって求められるアガリの速さと高さ。 両者は一般的に相反するものなのだが、彼はこれを両立させ得るとした。 最速最強。 この世界でトッププロと呼ばれるには、複数のビッグタイトルを獲ることが必須である。 すでにトップリーグに在籍していた多井がこの条件を満たしたのは、2005年の第31期王位戦であった。 王位戦の決勝は、7半荘という比較的短期で行われる。 いきなり連勝でスタートした多井だが、まだ安心できるポイント差でもない。 そして3回戦の出だしはあまり良くなかった。 というか、嫌なパターンにはまる予感が彼にはあった。 3回戦開局。起家多井の5巡目。 1134567s東南西西北白 ドラ4m ここからトータル2位の上家が捨てた1枚目の1sをポン。 一発や裏ドラがない競技ルールにおいて、染め手の威力は大きい。 子方に字牌を絞らせ、特にターゲットの上家の手を遅らせ、テンパイ連荘を目指した鳴きである。 だが、彼が標榜する「最速最強」とは真逆となる、遅く、しかも安い仕掛け。 つまり麻雀の本質から外れた、戦略的な仕掛けである。 多井が勝ちきれない時期が続いた時、その原因は戦略の多用にあるという評が多かった。 その後フォームを修正し結果を出していたが、やはり有効な戦略は活用しようというわけだ。 本局は結局、彼の注文通りにはいかず他家に押し返され、南家に満貫をツモられてしまう。 せっかくの好調が、一つの鳴き判断によって-しかも苦い経験をもつ戦略的な仕掛けによって-離れていってしまう予感が、多井を襲う。 流局をはさんだ東2局1本場。好配牌を得る。 2379m23p1s東東南中中中 ドラ3m ホンイツやチャンタをからめて、メンゼンならハネ満まで狙えそうな手である。 開局に仕掛けて失していることもあり、ここは腰を据えて打ち、態勢を立て直したいところだ。 第1ツモ8sで、打南。 上家が1mを捨てる。 8mや東ならともかく、ツモを放棄してリャンメンからチーする手は弱い。 と、多井は「チー」。 すぐ東も鳴け、5巡目に9mを重ねテンパイ。 8巡目に安めながら4pで5,200を出アガった。 99m23p中中中 ロン4p ポン東東東 チー123m ドラ3m 「あの時はかなりヤバイと感じてたから、配牌を見た瞬間、これは落とし穴だと気が付いた。だから普段なら鳴かない牌から仕掛けていったんだ」 多井の師匠は故安藤満。不調時の脱出法「亜空間殺法」という技を極め、麻雀界のタイトルを総なめにした偉人である。 1mチー。 この鳴きとアガリを観た瞬間、多井と安藤の姿が重なって、私の眼には映じた。 トイツマスター土田浩翔が以前、トイツ打法を完璧にこなす多井に舌を巻いたことがある。 「他人から盗んだ技術を、まるで自分が編み出したかのように使いこなす。間違いなく天才だね」 かくして速攻で本局を制した多井は、その後も安定した闘いで王位を獲得する。 優勝杯を掲げるその姿を見ながら、終わりのない命題を、いずれ彼は解き明かしてしまうのかもしれないと、私は思った。 最速かつ最強という、命題を。 (文 室生述成)
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