読むJ-POP 2009

ミスチル・「エソラ」のきらめき。


田家秀樹さん

田家秀樹さん (0)

2008/12/29 17:18

  十二月もあと数日となってしまった。
 年末ギリギリになって色んな仕事が飛び込んできてしまい、あっと言う間にこんなに時間が経ってしまった。
 それにしても、こんな不景気な年末を誰が予想しただろう。バブル期とまでは言わなくても今年の初めくらいは景気回復という絵空事のような話が聞こえてきたような気がする。それが、どうだ。今や職を失った人の数がニュースになるのだから、世の中一寸先は闇、ということなのかもしれない。
 こんな社会に誰がした、と忌々しい想いに捕らわれるのは僕だけではないだろう。

 とは言え、音楽業界的に言えば、不景気の時は歌番組が流行るという言い方があるようだ。遠出する余裕もなくなり、家でテレビを見ている人が増えるということだろうか。
 確かに、いつもの年に比べてそういう番組が多いように思うのは気のせいだろうか。
 前置きが長いのはいつものことだが、そんな歌番組で目立っているのがMr.Childrenだろう。ほとんどの歌番組に出ているのではないだろうか。もちろん、「紅白」もその中に含まれている。

 テレビだけではない。
 11月の末から12月にかけて、彼らが表紙になった雑誌は、少なくとも東京だけで5誌はあった。表紙巻頭の特集である。記事では桜井和寿個人のインタビューとメンバー全員という使い分けはあったにせよ、彼らの特集であることには変わりがない。
 全方位的露出、である。

 桜井和寿は、そのことについて「多くの人にアルバムを聴いて欲しいですから」と言い、同時に「このアルバムの根底に流れているのは、音楽の持つ人なつこさだと思うし、それがそうさせているのかもしれない」とも言った。言うまでもなく、12月10日に発売になった彼らの15枚目のオリジナルアルバム「SUPERMARKET FANTASY」
である。

 Mr.Childrenは去年、デビュー15周年を迎えた。オリジナルアルバム「HOME」だけでなくシングルのB面を集めた「BーSIDE」のリリースやアリーナとスタジアムの両方を回ったツアーと精力的に過ごしていた。去年、シングルで発売になりアルバムにも収録されている「旅立ちの歌」は、スタジアムツアーでも披露されていた。つまり、アルバムには、去年のツアーの持っていた密度がそのまま凝縮されていると言って良い。
 
 前作「HOME」は、彼らのアルバムの中でも最高傑作と言って間違いなかった。
 その一つに、テーマの一貫性があった。必然性と言ってもいい。今、なぜ彼らがこうしたことを歌うのか。それは、15年目にしてここに”たどり着いた”と思わせるに十分な説得力を持っていた。

 あのアルバムの中にあった”日常性”。日々の暮らしの中でいつものように繰り返される何気ないことのかけがえのない意味。”老い”というにはあまりにも切ない、年を重ねてゆくことの愛おしさ。それは地に足の着いた大人の細かやさを感じさせた。

 前作のインタビューの中で最も印象深かったのは、桜井和寿が「これは僕等のロックアルバム」と言ったことだった。
 彼は、世の中や時代への警鐘を鳴らしたり、そこにある不条理な死を投影したような従来のロックでは、すでに現実には太刀打ち出来ない、という話をした。端的な言い方をすれば、戦争や環境破壊など、起こりえないことが当たり前になり、現実の方がロックになってしまっている、というのである。

 それに対して、現実をなぞるような表現ではなく、それとは対極的な位置にあることが”日常”なんだと思う、と言った。つまり、現実に対しての緊張感、という意味でも、このアルバムはロック、だと言うのだった。
 そのことのリアリテイは、今年の年末にこそより強くなるのではないだろうか。
 アルバムのきっかけとなった曲「彩り」の中には”ただいま””おかえり”というやりとりがある。
 そんな何気ない瞬間こそ、今の彼らの音楽が流れていると言って良いのだと思う。

 「SUPERMARKET FANTASY」は、「HOME」に流れていたそんな音楽観を更に強めたアルバムだと思う。
 ただ、そこにはもう、”ロック”という一つのカテゴリーでは語れない音楽的な豊かさが備わっている。
 すでに気がついている方も多いだろうが、それぞれの曲で”音楽””歌””メロデイ”という言葉が使われている曲が多い。桜井和寿の言葉を借りれば「そういうことを歌おうとしたわけではなく、自然に出てきた」結果ということになる。

 かと言って、単に楽天的な音楽礼賛アルバムに終わっていないのは、その向こうにそうではない”現実”が見え隠れするからでもある。音楽はいつか止むものであり、どんな人の絆にも別れ別れの時があり、人の命にも終わりがある。そうだからこそ、今、音楽に向かっていられることの歓びが溢れている。

 今回のインタビューで印象深かったのが、桜井和寿は「戦争や環境のことを語るときに、人間はなんて愚かかなんだ、という話に終わるのが嫌だった」と言ったことだった。
 こんな時代だからこそ、音楽に本気になる。
音楽を”やる”というより、音楽に”なる”。そんなアルバムと言って良いと思う。

 アルバムの中に「エソラ」という曲がある。あれは”絵空事”から派生したタイトルなのだそうだ。”夢物語”や”絵空事”というのは、非現実的な世界として、マイナスなニュアンスもある。”夢物語”から”物語”と取った時に”夢”が残るように”絵空事”から”事”を取ると、現実になるのかも知れない、ということだった。

 誰の心の中にも、起こりえないことが起こるような気がする。音楽はそんな溢れる歓びを伝える力を持っている。あのアルバムジャケットのようにキラキラとした光を放っている。それが、このアルバムだと思う。
 
 

 
 
 
 

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コメント (2)

ヨシ様さん

ヨシ様さん (97)

2009/01/07 23:01

ミスチルは紅白にも出たし、今後のスタンスに注目したいです。

田家秀樹さん

田家秀樹さん (0)

2009/01/09 15:51

ヨシ様・ありがとうございました。ミスチルは今後の日本の音楽の柱になってゆくでしょうね。



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