小関順二が高校野球を語る

大人がドラマを作ってはいけない


小関順二さん

小関順二さん (9)

2007/08/23 10:00

帝京高各打者走者の一塁への全力疾走がないことに対して、盗塁をしているから「走塁には積極的」という意見があった。しかし、一塁への全力疾走がないことによって守備陣は楽に守れる。佐賀北高は帝京高打者走者の全力疾走がないことを、試合後の取材で「あらかじめ知っていた」と言う。これによって、帝京打線の強い打球を体ごと止めると、各内野陣は落ち着いて次のスローイングに専心できた。つまり、「帝京高の打者走者は一生懸命走らないから、ひと呼吸置いても大丈夫だ」という安心感を与えたのだ。帝京打線の強打に最初から腰を引いて守っていた駒大岩見沢高、神村学園、智弁学園と佐賀北高との差がここにある。
 佐賀北高の積極的な守りは決勝の広陵高戦でも健在だった。とくに三塁手の副島浩史は広陵高各打者の強い打球を体で止めると、すぐに体勢を立て直し、確実なスローイングで打者走者をアウトにした。4回表の小林誠司の打球、5回表の山下高久雄の打球がそうだった。
 打っても勝負を決めたのはこの副島である。8回裏、7番江頭英治が2:53に空振り三振に斬って取られた直後から反撃は始った。8番の投手・久保貴大は前の打席で左打席に入っていた。どうしても打ち崩せない広陵高・野村祐輔を少しでも揺さぶりたいという思いがあったのだろう(登録は右投右打)。この打席では右打席に立ってレフト前にヒットを放ち、代打・新川勝政が右前打で続き、無死一、二塁。ここで辻尭人、井手和馬が四球を選んで1点返し、迎える打者は3番副島という場面。
 これまで副島は野村のボール球にになる低めスライダーをことごとく打ちに行き、凡打を繰り返していた。野村はこのことを知っていたはずで、この打席もボール球のスライダーで勝負したいと思ったはずだが、辻、井手のとき主審のストライクゾーンが極端に狭くなっていたので、それまでのようにボール球で勝負できなくなっていた。それが1-1からの甘く真ん中高めに入るスライダーにつながっていく。
 準決勝まで打率・333を残す副島がこの失投を見逃すはずがない。打った瞬間、ホームランとわかる大飛球がレフトスタンド中段まで運ばれ、三塁側アルプススタンドに陣取る佐賀北高応援団は熱狂した。三塁側だけではない。一塁側アルプススタンド以外は全員が佐賀北高応援団と化した甲子園球場が大揺れに揺れた。見ていて野村が可哀想になった。誰も味方してくれない状況の中で投げなければいけない野村の孤独感がひしひしと伝わってきたからだ。
 主審のジャッジのことを書いたが、投げた野村も打った副島も立派だった。正々堂々とした勝負で、歴史に残る名勝負になった。一つ教訓があるとすれば、甲子園大会という場で大人が「過剰に介在することは野暮」だということ。「俺が勝負を演出してやるんだ」的な大人の判断は甲子園球場には似合わない。

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