アラーの国のフットボール

サウジアラビアを救う“危険なナイフ”


海島健さん

海島健さん (2)

2009/04/07 23:12

 W杯アジア最終予選5試合終了時点で勝ち点4と低迷していたサウジアラビアが第6節(3月28日、アウェーのイラン戦)と第7節(4月1日、ホームのUAE戦)に連続して逆転勝ちを収め、勝ち点を10に大きく伸ばす。勝ち点では北朝鮮と並んで2位、首位の韓国は勝ち点11(試合消化数はサウジアラビアが多い)だから、完全に息を吹き返した。
 
 新聞報道によると連勝を決めた4月1日の夜は、サウジアラビアの多くの街で国民が外に出て車のクラクションを激しく鳴らすなどして、翌朝まで騒いだ模様だ。タリーフという街では民衆が騒ぎすぎ、抑えがきかなくなってきたのに危機感を抱いた警察が威嚇射撃をして鎮めようとしたというから、その熱狂ぶりは常人の理解を超えているといえるだろう。

 

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 サウジアラビアは2戦目までは1勝1分けと上々の滑り出しだったものの、3戦目のホームでの韓国戦(0-2、08年11月19日)、4戦目の平壌での北朝鮮戦(0-1、2月11日)と、まさかの連敗を喫した。直後にナセル・アル・ジョハル監督が辞任。その後も悪いごたごたニュースは続いていた。3月28日からの対イランと対UAEの連戦を直前に控えた時期にエースFWヤセル・アル・カフタニ(アル・ヒラル)が代表のリストから外された。理由は怪我などではなく24日の合宿を無断で休んだためとのこと。23日にも国内リーグのアル・ワフダ戦に出場しており、バーレーン代表のアラー・フバイル同様アジアCLと国内リーグでの疲労がひどかったようだが、アラーとは違って大目には見てもらえず規律違反の判断を下された。
 
 94年米国大会から続いた連続出場に黄信号か…と思われたが、サッカーは分からない。これでチャンスを与えられた20歳のFWナイフ・ハザジィ(アル・イテハド)が大仕事をやってのけたのだから、本当に人生万事塞翁が馬だ。いや、コラムの性質上、「ハムドレラ」(神様ありがとう)と言った方がいいか。
 
 名前からして切れ味抜群そうなナイフは、イラン戦で先発し0-1のビハインドの状況での後半34分に同点ゴールを流れの中で見事に相手の裏を取るプレーで決め、アザディスタジアムのイランファンを沈黙させる。ゲーム終了間際にオサマ・アル・ハルビ(アル・イテハド)が逆転ゴールをセットプレーで決めたが、この得点はCKから生まれており、このCKを粘り強いプレーでゲットしたのもナイフだった。

 こうなるとヤングパワーは止らない。4日後のUAE戦でも当然のように先発。モハメッド・ヌール(アル・イテハド)がゴール前に放り込んだクロスに鋭く反応したのを止めにきたUAEのDFのプレーでPKを獲得し、これがサウジアラビアの先制点になる。逆転を許して1-2となった後半26分、右サイドから入れられた低い弾道のクロスに触ろうとした手前でUAEのファリス・ジュマ(アル・アイン)がクリア、ではなく自軍のゴールにボールを入れてしまうOGのアクシデントで同点。後半38分にはCKを頭で合わせて勝ち越し点を奪った。
 
 2試合で決まった5ゴールのうちの2ゴールだけでも秀逸な結果であるが、5ゴールすべてに何らかの形で絡んだ。まさに、砂漠の国に現れたゴールデンボーイ、相手にとってはこれ以上ない危険なナイフ。
 
 UAE戦翌日の見出しも、
 「負けゲームを勝ちにした!!緑の軍団(サウジアラビア代表)、UAEの激しい乱気流をゴールデンヘッドで乗り切る」(アル・ワタン)
 「緑の軍団が(W杯出場の)夢に(今回のアジア最終予選では)最も近づいた瞬間」(アル・リャディーア)
 
 などと今回の最終予選では最大級の歓喜を表現し、アラブ系のTVなどではこのナイフの話題で持ちきりとなった。
 
 ちなみにこの20歳の超新星FWナイフの代表デビューは前任のナセル・アル・ジョハル監督に大抜擢された08年11月のW杯アジア最終予選の韓国戦だったが、いきなりの大失態をやらかしている。以前のコラム「審判は韓国の味方か、憤怒のサウジアラビア」でも紹介した話題だが覚えている読者の方はいるだろうか? この試合でのゴール前でのきわどいプレーがシュミレーションと判断され、2枚目のイエローカードで退場。この後、数的不利となったサウジアラビアは韓国に2ゴールを許して敗れた(このプレーの判定に関してはサウジアラビアサッカー協会の会長アミール・スルタンが強硬に抗議をしている)。
 
 この韓国戦の退場で、続く北朝鮮戦は出場停止になり、平壌での試合に怪我をおして出場したヤセル・カフタニも本調子ではなくチームもあえなく敗退で、ナセル監督は辞任に追い込まれている。
 
 少しややこしくなったかもしれない。やや単純に、強引にFWナイフのことを時系列でまとめてみよう。サウジアラビア代表との関係もすごいものがあるのがわかる。
(1)韓国戦でナセル監督の抜擢で代表デビューも退場処分。チームはその後2失点して敗退。サウジ協会の会長はAFCに猛烈に抗議。
(2)北朝鮮戦には出場停止で帯同せず。FWヤセル・カフタニはケガ気味(FWマレックは家族の不幸で平壌にこられず)で、チームは人工芝などにも苦しみ0-1の惜敗。ナセル監督が責任をとって辞任。
(3)今回の2連戦を前に、ヤセル・カフタニがメンバーから外されることに。代役はあの大チョンボをやらかしたナイフになるのか?
(4)YES、イラン戦で先発。1ゴール1アシストで2-1逆転勝利の立役者。
(5)UAE戦でも先発。実質すべてのゴールに関与し自身も1ゴールでこれが決勝点。
 
 いやーすごいですね。まとめてみて筆者もびっくり。昔のバルセロナとロナウジーニョの逆バージョンではないが「サウジアラビア代表はナイフとともに沈みナイフとともに浮かんだ」という感じだ。アミール・スルタンという権力者がナイフのプレーに関して抗議をしたのも、この20歳のスーパースターに「お前は悪くない。次はしっかりやれ」というメッセージだったのかもと思えてしまうくらいドラマチックな展開。
 
 「恩人」ナセル前代表監督のナイフ抜擢で特に評価できるのは、ナイフは所属クラブではスーパーサブの扱いなのに、その才能を見込んで代表に招集し先発させたことだろう。そして今回のこの代表での大活躍で一気にブレーク。アル・イテハドでの起用法にも今後かなりの影響があるのではとファンの間ではささやかれている。
 
 ちょっとしたアクシデントから国の英雄が新たに誕生したサウジアラビア。6月の残りの2試合が韓国と北朝鮮という上位国との直接対決になるが、韓国がどこかで取りこぼすようなら組1位になるというシナリオも、この勢いならあるかもしれない。W杯予選では、最後にきっちり帳尻を合わせるサウジアラビア、やはり中東の盟主らしい戦いぶりになってきた。

 

※写真はサウジアラビア代表の数々の試合を見守ってきたキング・ファハド・スタジアム

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コメント (1)

海島健さん

海島健さん (2)

2009/05/20 21:31





 >「恩人」ナセル前代表監督のナイフ抜擢で特に評価できるのは、ナイフは所属クラブではスーパーサブの扱いなのに、その才能を見込んで代表に招集し先発させたことだろう。そして今回のこの代表での大活躍で一気にブレーク。アル・イテハドでの起用法にも今後かなりの影響があるのではとファンの間ではささやかれている。


アル・イテハドのカルデロン監督、やはりこのナイフを先発起用するようになってきました。

勝ち点差2で迎えたサウジアラビアリーグ最終節(4月12日)、アル・ヒラル(勝ち点50)VSアル・イテハド(同52)の直接対決に先発し、先制点はこのナイフ。試合も1-2でアル・イテハドが勝利しリーグ優勝だから大貢献である。

圧巻は昨日(5月19日)のアジアCL第6節、ホームでのウム・サラール戦。やはり先発すると2点目、3点目、4点目と立て続けにゴールのハットトリック達成で7-0で相手を一蹴。両チームともすでに決勝トーナメント進出は決めていたのですが、グループ1位の座をかけた大事な試合でした。

ちなみにあの元ガンバ大阪のマグノ・アウベスとバーレーンのエース、アラーフバイル(2人ともウム・サラール所属)はこの試合を欠場しており、5月27日のトーナメント1回戦(=アジア西地区はこの日)での奮起を期待したいですね。

アル・イテハドが勝ち上がってベスト8やベスト4あたりでJリーグ勢とやる日も遠くないでしょう。



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