アラーの国のフットボール

「リヤドの奇跡」にマナマの歓喜の夜


海島健さん

海島健さん (2)

2009/09/11 00:11

<W杯予選アジア5位決定戦:(2)バーレーン2-2サウジアラビア(2)>◇第2戦◇9月9日◇リヤド※カッコ内は2戦合計得点

 バーレーンが劇的なロスタイムの同点ゴールでアジア5位を決めて悲願のW杯出場に大きく前進した。
 初戦をホームで0-0で引き分けての第2戦は、敵地リヤドでの一戦とあり1-1以上の引き分けでもアウェーゴールの差で5位が決まる。考えようによってはサウジアラビアよりも有利と言える状況で、前半をFWジェシン・ジョンの同点ゴールで1-1で折り返す理想的な展開。
 しかし、最後の最後にアラーの神は劇的な結末を用意していた。勝つしかないサウジアラビアが後半、猛攻をかける。バーレーンの選手が、恐らくは時間稼ぎのためピッチに倒れこむが、サウジアラビア側は全く無視してのプレーオン。倒れたら相手が有利になるだけ-これがW杯の切符がかかった試合だ。


 1-1でロスタイム3分の表示。スタンドに王族がズラリと並びホームの圧倒的な声援を受けるサウジアラビアは、バーレーンのゴールラインを割りそうなボールもあきらめずに追いかけ、サウジFWヤセルがライン手前で追いついてマイナスのクロスを折り返す。バーレーンのゴール前にふわりとあがったボールにハマド・アル・モンタシェリがヘッドで合わせると、ボールはバーレーンゴールに吸い込まれた。シャツを脱いで走り回るモンタシェリにサウジの選手が次々と抱きつき歓喜の輪が広がる。

 「ハラース」

 筆者がテレビ観戦するバーレーンの首都マナマのカフェ「ベランダ」で、横に座った男が呟(つぶや)いた。「ハラース」とはアラビア語で「終わりだ…」といった意味だ。ロスタイムの残り1分もない状況での失点。しかも敵地。店内は歓喜するサウジアラビアの選手を映し出すテレビの音声だけが響き、まるでお通夜のような状況に。そこで席を立って家路につく気力さえない、という感じでバーレーン人はただ、ぼう然と座っていること以外にやることなどなかった。日本人である筆者にはドーハの悲劇(1993年)を思い起こさせるようなこの「幕切れ」に、バーレーンを応援していて何度も味わった屈辱の数々がよみがえった。いいところまでいきながら決してタイトルをとることはなかった歴史に、また今回もそれが加わるだけだ、と自分を納得させることで結果を受け入れるしかなかった。だが、ドラマは終わらなかった。

 テレビの画面に映っていたのは歓喜にわくサウジアラビアサポーターと選手達、サウジアラビアの王室の方々のお顔もアップで映され、「ドラマの終わり」の準備もできていた。しかしそこにちょっとした弛緩が読み取れないこともなかった。ほんのちょっとのゆるみだ、いま考えれば。

 時間つぶしのボールキープにこだわらず、さらに攻めあがってきたサウジアラビアからバーレーンがボールを奪取すると、ボールをとにかく前に運び、最後はサルマン・イサが相手にボールをぶつけてCKを獲得する。もう時間はほとんどなく、いつもならファウジやサルミーンが蹴るはずのCKを、そばにいたサルマン・イサがそのまま蹴る。ボールはゴールの前にゆっくりと上り、赤いユニホームの選手が3人くらい固まっている場所へ。イスマイルが頭で合わせるとボールは相手GKの手の先を抜けてゴール右隅に転がっていった。その瞬間、立ち木が倒れるようにサウジアラビア選手がピッチに崩れ落ち、赤のユニホームが歓喜の輪を作っている。その横を1人のサウジアラビアの選手がボールを持ってセンターサークルへと走っていく。

 その瞬間、筆者のいるカフェ店内は大騒ぎになった。「ウォー!!」と全員が立ち上がり、知らない人間同士が抱き合い、歓喜の雄叫びを上げる。「アンビリーバーボー」とか「ミラクル」とか、そんな英語を口にして筆者に抱きついてくる。そんな大騒ぎがしばらく続くと、やってきたのは幸福な脱力感。多くの人が「こんなことがあるのか?」という感じで喜び疲れてイスに座り込んでいる。こうしてマナマの歓喜の一夜はすぎていった。

 

umishima090910 

 

 翌日のアル・アヤム紙は「我々のチームは次のステージへ、国王もみんなを祝福」とのタイトルで報じ、「各プレーヤーに6000BD(約174万円)をボーナスとして渡すことになった。次のニュージーランドにも勝ったらさらに3000BD」とあった。夢のW杯はいよいよ現実のものとなりつつあるのを実感させられる。

 試合前に「日本やサウジアラビアなどと違い、超小国バーレーンにとってはW杯出場のチャンスなんていうのは、今回が本当に最後だろうな」と周囲で観戦していた友人がもらした。それが正しいかどうかはさておき、この一点突破にかける熱い思いは恐らくバーレーンサポーターが共有しているものであろう。それが今回のバーレーンサッカー史の大きなひとコマとして今後もずっと語り続けられるであろう「リヤドの奇跡」を生み出したのだろうか。

 「ホイッスルが鳴るまでボールを追え」というサッカーの基本的ともいえる教訓を今回の試合が教えてくれた。次は大陸間プレーオフ。ニュージーランドを倒せば人口70万人の小国バーレーンが世界の舞台に立つのだ。ドラマの最終章が見えてきた。

 

※写真はサウジアラビア戦の結果を報じるアル・アヤム紙

ソーシャルブックマークへ投稿(ソーシャルブックマークとは はてなブックマークに追加 Buzzurlにブックマーク

コメント (17)

サイトヲさん

サイトヲさん (1)

2009/09/11 00:55

海島先生、おめでとうございます。(?)

1戦目も2戦目も、結局TVで観ることかなわず、
リヤドにいる在留邦人の知人+ニュースで結果を知るのみとなってしまいました。
(サウジvs北朝鮮戦はちゃんとBS1で生中継してくれたのに…)

サウジからすればまさに「リヤドの悲劇」ですね。
それにしてもロスタイムに失点しながら起死回生の同点ゴールを決めるとは。。。
もしこのままNZを破ってバーレーンがW杯の切符を手にするなら、
北朝鮮と並んで、本大会のアジア勢の台風の目になるかもしれません。
技術云々より、死線を何度もくぐり抜けることで培われてきた勝負への執念と精神力、
こちらこそが本大会では重要になってきそうな気がするので。
そう考えると日本は…。

yuiyuiさん

yuiyuiさん (0)

2009/09/11 01:32

祝海島さん!
 「ようつべ」で見れました。バーレーンすごすぎです。それはともかく、海島さん、サポーターが先に諦めてはいけません。

海島健さん

海島健さん (2)

2009/09/11 04:07



サイトヲさんへ

早速ありがとうございました。
やはりナイフの離脱は大きすぎましたね。
ナイフがいなくてもこの戦いですから、もしいたらこうはならなかったでしょう。

サウジアラビア在留邦人の方々にとっては悲しい結末になりましたが、ものすごい歴史的な試合を見たということには変わりありません。
でもなかには「サウジ負けろ」なんていう過激なアンチもおられるとか?

辛酸をなめ続けたバーレーンにサッカーの神様がちょこっと微笑んだのでしょう。
最後にもう一回微笑んでほしいと願っています。

海島健さん

海島健さん (2)

2009/09/11 04:13


Yuiyuiさんへ

>「ようつべ」で見れました。バーレーンすごすぎです

こんな番組が日本にはあるんですね

>それはともかく、海島さん、サポーターが先に諦めてはいけません。

いや、あきらめますよ普通は。
日本では「ドーハの悲劇」と「JBの歓喜」って数年の間隔がありますけど、今回のバーレーンは約1分後ですからね。心臓に悪いです。

yuiyuiさん

yuiyuiさん (0)

2009/09/11 04:52

海島さんへ
「ようつべ」は「you tube」です(笑)
ここまできたらNZを倒して南アフリカ行きを決めてもらいたいです

海島健さん

海島健さん (2)

2009/09/11 05:06



ゴールを決めたイスマイルのコメント

「今日起こったことが信じられない。ゴールを決めたとき心臓麻痺で死ぬかと思った」

海島健さん

海島健さん (2)

2009/09/11 05:10

yuiyuiさんへ

それなら僕もみましたよ。
ゲーム直後くらいに送ってくれた友人がいましたので。

南アにはいくしかないですね。

プーアールさん

プーアールさん (0)

2009/09/11 17:41

海島さん、遅ればせながらおめでとうございます。

いやー、最後のCKは凄かった。
イサはまだ味方がゴール前に上がり切っていない状態なのに、直ぐ蹴りましたね。
それだけ、ゲーム終了の笛が迫っているのを感じてたんでしょうね。
なんと、GKも含めて9人が守るサウジゴールを4人でこじ開けましたね。

さて、もう1つですね。

何試合か観ましたが、NZもいいチームです。
欧州の評価では5分5分か、少しNZ有利のようですが、頑張って突破してください。
応援しています。

ドーハ鯛さん

ドーハ鯛さん (1)

2009/09/11 17:48

海島さん
はじめまして
バーレーン在住者です。
(J2 愛媛FC、日本代表、バーレーン代表サポです)

バーレーン協会のサポーターバス(22台)に乗ってバーレーン・リアド往復してきました。
(飲食費を含めてすべて無料、最後は関係者からバス毎に支給されたお金が余り60サウジリアル貰いました)

後半40分過ぎからバーレーンサポ席は総立ち(約1500人)で応援

ロスタイムでいったん地獄(ほとんど放心状態)その後1分半後に天国へこのような試合は2度と見えないでしょうね。

試合後バーレーンサポも気分が悪くなり(胸を押さえていました)1名救急車で運ばれましたよ。

2005年のトバコ戦以来バーレーンを応援しています。ウズベキ戦以後現地新聞にバーレーン代表を応援する日本人サポーターとして私の写真がのっています。

海島健さん

海島健さん (2)

2009/09/11 22:55



フーアールさんへ

いつもありがとうございます。
結果を知ることなく録画をみられましたか。
この情報社会ではかなり難易度が高そうですね。特に日本では。
「おいおい、知ってるか?」なんて人がいたかもしれません。

サルマンがCKを蹴ったのがものなにげに一番ドラマチックかな、と思います。
時間が2分あったらサルマンもゴール前にはっていたか、最後尾にモハメッド・フバイルといたかでしょう。

>何試合か観ましたが、NZもいいチームです。
欧州の評価では5分5分か、少しNZ有利のようですが、頑張って突破してください。
応援しています。

そうですか。
バーレーンの友人経由で選手などにも伝えておきます。
国内では「もう85パーセント当確」などと浮かれていて、そこが危ない感じがしますね。
ちなみにFIFAランクは100位前後ですが、どのあたりが意外な高評価になっているのでしょうか。セルティックにいたクリスとかオーストラリアリーグ所属の選手も手ごわそうですね。

海島健さん

海島健さん (2)

2009/09/11 23:06


ドーハ鯛さんへ


>2005年のトバコ戦以来バーレーンを応援しています。ウズベキ戦以後現地新聞にバーレーン代表を応援する日本人サポーターとして私の写真がのっています。

あの椅子が空を舞ったゲームですね。
あれが最初ですとやはり病みつきになるでしょうね。


バスツアーの話は聞いておりましたが、日本人も乗せてくれましたか。
バーレーン協会も粋ですね。
11月もNZ航空機ツアーなんてあったらいいですね。
ちょうど大学の中間休みなのでいっちゃいますよ。

お気に入りのバーレーン戦士はだれでしょうか。

プーアールさん

プーアールさん (0)

2009/09/12 15:26

それがヒドイ事に、直前にイングランド対クロアチアに放映カードが差し替えられていました。^^;
よくあるパターンですが、結局、僕もダイジェストしか観れてません・・・。

NZは6年程前のFIFAランキング50位程度の頃に比べて、ビルドアップ方法が少し変わってきたかな、という印象です。
その頃は、最終ライン→SB&ボランチ→縦か逆サイドの裏にロングボールってなパターンでしたが。
今は、最終ライン→サイド→中→サイド→アーリークロス→こぼれ球勝負ってな感じで、ミドルパスで繋ぐ事が多いですね。
ハイプレスで出し手にプレッシャーをかけ、コースを限定したミドルパスをカットしてショートカウンターを発動するという典型的な前プレパターンが有効に想えます。
ただ、そのパターンがあまりハマると、逆にロングボールが増えてくるので、ハマった時はビシッと点を取ってほしいです。
あとは、引いて構えると、フィジカルや球際が強いので、アーリークロスはあまり上げさせない方がいいかな。
事故を起こすナチュラルなパワーみたいなものがありますからね。
スメルツという点取り屋がいますが、ペナ内でしか仕事ができないタイプなので、孤立させれば問題ないです。

バーレーンの守備レパートリーのハーフェイラインぐらいからの連動プレスとリトリートの2ライン守備ブロックの切り替えどころを間違えなければ、実力的には勝てると想います。

*6:4でバーレーン有利のBookieもありましたよ。^^

海島健さん

海島健さん (2)

2009/09/12 23:48



フーアールさんへ

直前に差し替えですか。湾岸並みにやりますね、日本も。

NZ情報、ありがとうございます。
「事故をおこすナチュラルパワー」は気をつけたいですね。
ドイツW杯の日本VS豪州でのラスト3失点みたいな強引さがあるということでしょうか。バーレーンのCBあたりはそういうのはQSLあたりで相当鍛えられてはいます。注目してみますね。

バーレーン人は平均すると85パーセントOKくらい。
海島としては6割くらいでバーレーン有利と考えていますが、たぶんに主観がはいっているでしょう。が、のりこえてきた修羅場の数を考えるとやはりそれくらいかなと。

あの「奇跡」から3日ですが、まだ興奮が体の芯に残っています。

yuiyuiさん

yuiyuiさん (0)

2009/09/13 17:35

海島健様
 次のNZ戦も、日本ではあまり情報が入らないかもしれないので、よろしくお願いします。絶対にバーレーン応援します。

海島健さん

海島健さん (2)

2009/09/13 23:53

yuiyuiさんへ


はい、最終章もきちんとお伝えします。

サウジアラビア国内の様子も気になりますね。

ドーハ鯛さん

ドーハ鯛さん (1)

2009/09/19 03:05

海島さん
今週ドバイ出張していました。ドバイでは本ブログにアクセスがBLOCKされ(本ブログのUAEの記事か日刊スポーツのSNS自体でBLOCKされるか)閲覧出来ませんでした。

バーレーン代表ではJALALとRINGOを応援しています。兄弟が一緒の会社、兄弟と一緒に仕事をした、イサタウン出身(RINGO)の同僚の近く住んでいた等のつながりです。

JALALからは、BAHRAIN代表練習用ユニを貰った事があります。

ご存知かもしれませんが、JALALは今年度はじめの
ガルフカップでマチャラ監督と大喧嘩をし代表から外れていましたが、サウジ戦で復帰しました。
彼の中盤のプレー良いですね。

NZ航空機ツアー、行きたいですね!
日本人会の秋祭りと重ならなければよいですが!

10月10日はスタジアムでお会いしましょう。
私は、代表コアサポの所で、有名なサポのマハムーブ兄弟と一緒に応援します。

リアドの試合ではコアサポのコブラの笛の方
後半すっと吹いていました。

海島健さん

海島健さん (2)

2009/09/19 21:39



ドーハ鯛さん

UAEでは僕も同じような目にあいました。
UAE代表関連の原稿をあげてもらったあと確認作業をしようとしたのですが、なぜかSNSにアクセスできなかった覚えがあります。
あれはなんだったのでしょうか?

ジャラルですか。
渋いですね。ジャラル代表復帰は前回コラムではさらりとしか触れられませんでしたが、おかげで代表にはあつみがでました。ボランチは激戦区で、マチャラお得意のファッタイトップ下の場合1ボランチもありえるわけで、ジャラルの出番は減ってしまう傾向にあります。このあいだの大一番サウジ戦のような戦いでは経験値の高い彼は貴重な戦力です。

確かガルフ杯オマーン戦で審判にあまりに執拗な抗議をしてマチャラにお灸をすえられたはずです。フバイル兄弟とも似たような理由でバトルをしましたが、このへんもマチャラの手腕?でしょうか。

ドーハ鯛さんは6月のウズベキスタン戦とかでも、いわゆるムハラクサイド(メインゲートからはいって一番客がはいるところ)で日本国旗をたまにピラピラ振って応援されていませんでしたか。

かなり混むでしょうが、10月10日はムハラクサイドに入り込めればお声をかけさせていただきます。
今後ともよろしくお願いします。



トラックバック (0)

トラックバックは受け付けていません。