アラーの国のフットボール

予選敗退サウジに噴出する批判


海島健さん

海島健さん (2)

2009/09/21 22:48

 W杯4大会連続出場を誇っていた中東の雄、サウジアラビアがプレーオフでバーレーンに敗れ、サウジ国内はもとより湾岸エリア全域でも騒然となっている。「サウジアラビアがここまで落ちてしまったのはなぜなのか?」とか「どうしたらサウジサッカーの再生はできるのか?」といった切り口の特番や特集を多くのマスメディアが取り上げている。そのなかでもかなり鋭く「本音」を語ったと思われる、アブダビ・スポーツ・チャンネルの特番をまず紹介しよう。

 まず、アブダビ・スポーツ・チャンネルだが、アブダビという地名からもわかるようにこれはお隣UAE(アラブ首長国連邦)のテレビ局。この局の特番にサウジアラビアのサッカー評論家やコメンテーターが集まり、討論などをしたもの。サウジ国内のテレビ番組では言いにくいことまで踏み込んでおり非常に興味深い。

 「96年にサウジアラビアサッカー協会が目標としてぶちあげたのが、2010年大会でのW杯優勝だったわけだが、W杯出場すらできずアジア予選のプレーオフで敗退。このことが意味するのはもちろん大失敗だ。したがって、サウジサッカー協会のスタッフは全員やめるべきだ」とまずは協会スタッフの総退陣を求めた。「全員」と言うからにはサッカー協会会長のアミール・スルタン・ビン・ファハッドまでを含んでおり、かなり危険な発言であることは間違いない。

 

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 続けて「今回に限らないが、サウジアラビアの代表チーム優先は度が過ぎた」と批判。日本からすればうらやましくなるほどの思い切った代表選手招集、代表強化策を打ち出せるサウジだが、クラブチームとのバランスが取れていない面もあり、クラブ側が悲鳴をあげる場面も多く、(クラブでのしっかりした活躍の上で代表でもやらせる)という面がおざなりになった点を指摘した。

 たとえば、アルイテハドは今夏スペインで行われたピース杯(7月24日開幕)に出場したのだが、協会の通達により代表選手は遠征には帯同できず代表の活動に専念しなければならなくなり、Rマドリードやリガ・デポルティバ(エクアドル)との対戦機会を棒に振ることになった。主力を欠いたアルイテハドも当然と言うべきか2戦2敗でグループリーグ敗退。

 また、代表のストライカー、マレック・モアドは08-09シーズンは全治7カ月の大ケガをしたのだが、ある程度治ったあとはなんと代表でリハビリ。所属クラブのアルアハリでの活躍もあまりないまま(サウジリーグでは結局5ゴール)、代表ではヤセル・アル・カフタニとの2トップということもあり、バーレーンとのプレーオフ初戦もこの組み合わせで無得点。

 当コラムでも「それはうらやましいですよね」といったニュアンスでお伝えした「巨大ニンジン」も批判の的になっていた。「W杯に出場したら選手などに渡すとした賞金も大会ごとにバンバン釣り上げていき、今回はもう非常識なほどだった」と批判。長いこと「ニンジンまみれ」になり、ニンジンなしではなかなか走らなくなったということなのか。事実、W杯最終予選B組最終節の北朝鮮戦の前にぶらさげた「巨大ニンジン」も効果が薄かったのか、引き分けに終わっている。

 「サウジアラビアサッカー協会はメディアの批判を許してこなかった」とも発言し、今後のサウジアラビアにおける協会とメディアとの関係も変えていかなければ発展はないとした。また、だからこその湾岸他国の特番への出演なのだろう。

 身の危険も顧みず? TVで勇気のある批判や改善策をのべた有名コメンテーター達。一方のサウジアラビア国内にいる一般のファンたちも今回ばかりは黙っているはずはなく、匿名で意見を書き込めるアル・ワタン紙のサイトにもいろいろな声がよせられた。

 「固定メンバーへの過度の依存をやめろ(=今後は思い切った世代交代を断行せよ)」
 「監督をしょっちゅう変えるのを自重しろ、エースFWヤセル・アル・カフタニの不調がすべて(=それにもかかわらずヤセルにこだわったアル・ヒラル閥への批判)」
 といったサウジ国外でも知られるようになったサウジアラビアの問題点などが取り上げられた。少数意見ながら、同紙があえて面白いとして取り上げた改善策が2つある。
(1)国籍取得選手の獲得も視野に入れる
(2)各クラブチームにもっと現代的なマネジメントを

 というものだ。

 (1)は日本のファンにとっては意外かもしれない。サウジアラビア代表には国籍取得選手はほとんどいないのだ。日本が今回W杯予選で対戦した、バーレーンやカタールなどの国籍取得選手のことが何度も話題になり、湾岸のチームといえばやたらと輸入選手のたくさんいるチームという印象をもたれたかたも多いことと思う。サウジアラビアの場合は湾岸きっての大国(人口が多いという意味で)で、湾岸他国とは違い、生粋のサウジ人だけで競争も激しく十分やってこられたという面と、イスラム諸国の中でも一番といっていいほど戒律が厳しく、そう簡単に「よそ者」が入り込める環境にないという面がある。ただ、今回まさに紙一重の差で敗れた相手バーレーン代表はドイツ大会予選までは「タブー」であったこのテーマにあえて挑んでの代表強化が実を結びつつあり、サウジアラビアにおいても将来的には全くありえないことではない。

 (2)はクラブの運営をする人がスポーツマネジメントには疎い、あるいはほとんど関心がないといったケースを指しており、友人によると個人的な権力や財力を誇示するためにクラブをもっているのではと思われるケースもあるという。

 この手の批判や提言がサイト上で匿名とはいえ出てくるのは、時代の流れとはいえ、驚きでもある。筆者は個人的には、「サウジ選手に国外での経験をもっと積ませろ」という意見を支持したい。このあたりは現実的な線かなとは思うのだが、今までもサウジ側は自国のスターを他国に手放すのを極度に嫌ってきた歴史があり、それほど簡単ではないらしい。

 最後に今回のW杯予選敗退に関してのちょっと気の利いたコメントを記しておこう。それは、
 「今回のW杯出場をのがしたのは、非常に悲しいと同時にうれしい」
 というもので、敗退決定後しばらくして少し冷静になったあたりで新聞やテレビ、ネットの掲示板でよく言われるようになった。「悲しい」というのはわかりやすいだろう。南アフリカの大会では16年ぶりにサウジアラビアの国旗がはためかないのだ。他国の戦いぶりを「傍観」せざるをえない大会。「うれしい」もわかる方にはわかるだろう。本大会に出られたとしても、今のサウジアラビアの状態では02年日韓大会(ドイツに0-8大敗などで勝ち点1も取れず)、06年ドイツ大会(グループ最下位)のような無様な戦いを世界にさらすだけだからでなくてよかったんだということ。日本代表がW杯予選を突破したはいいが、本大会に向けては大きな不安を覚える日本のファンも多いだろうから「なるほど」とうなずけるところだろう。

 大きな犠牲を払いつつも、サウジアラビアには将来にむけての抜本的な改革のチャンスを与えられたたと考えることも可能だろう。サウジアラビアの構造改革への道は第1歩を踏み出したばかりだが、湾岸の雄が本当に再生できるのか、その行方に注目したい。

※写真はW杯米国大会予選時のサウジアラビアの中心選手アルジャバー。当時のサウジアラビアはアジアでもトップの力を誇っていたのだが…。

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コメント (6)

yuiyuiさん

yuiyuiさん (0)

2009/09/22 13:04

サウジアラビアは2010年のワールドカップ優勝を目指していたんですね。優勝目指して予選敗退ではみんな怒りますよね、フツー。

海島健さん

海島健さん (2)

2009/09/22 19:10

まともに信じていた人は少ないでしょうが、コラムにあるような感じで怒っています。

itokichiさん

itokichiさん (1)

2009/09/23 04:45

なんとなく新鮮にサウジのサッカー事情に触れることができ 面白く思いました。かつての強敵湾岸
諸国。ドーハーの悲劇もテレビですが観戦しました。あれだけ粘り強く 執念を持った国でも 政策を誤ると W杯4強どころではなく、大会にも出られなくなるんですね。日本も南アは決めたけど
予選でも勝てるか?? でも政策誤ることなく、
世界の上位に君臨してほしいと思います。あと何年かかるか?? 少なくともあと衰退してしまってサウジのようになるか。。 でも南ア大会でまたしてもコテンパにならないと分からないのかも、日本のサッカーの要人には。 楽しみ 半分 また?
ということになるかもしれませんね。

海島健さん

海島健さん (2)

2009/09/23 05:12



Itokichiさんへ

楽しんでいただけたようでうれしく思います。
今回の「サウジ事情」は他人事ではなく、日本にもいつか大きな転換点があるのだということを暗示しているような「事件」かなと考えています。それが南アフリカ本大会になるのか、2014年W杯予選になるのか。

そちらのEUのサッカー事情(お住まいの国でも、お好きなある国でもかまいません)とも対比してのコメントなども歓迎いたします。

よろしくお願いいたします。

hosatoさん

hosatoさん (1)

2009/09/30 21:54

海島さん、はじめまして。
いつも楽しく読ませて頂いてます。

サウジはこれで海外組みが出るようになったら面白いですね。
また強くなって欲しいです。
でも、なんか日本も明日は我が身の気がしました。

海島健さん

海島健さん (2)

2009/10/02 03:43



Hosatoさんへ

ご愛読ありがとうございます。
万事塞翁が馬ですから、今回のサウジのW杯不出場もまた改革のいい機会だととらえるサウジアラビアファンもいることでしょう。

出場を決めた日本代表にはアジア代表としての責任もあり、W杯本戦までになんとか進化を遂げてほしいと願います。

アジアCLは次がアル・イテハドVS名古屋ですね。
「償い」の意味をこめたすごい試合になるでしょうね。



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