アラーの国のフットボール

これがアラーの国の蹴球?海島流バーレーンの敗因分析


海島健さん

海島健さん (2)

2008/09/08 01:40

<W杯アジア最終予選:日本3-2バーレーン>◇6日(日本時間7日)◇A組◇バーレーン・マナマ
 日本側も恐らく不安でいっぱいだったと思われる、初戦のバーレーン戦を無事勝利で終えた。バーレーン在住の日本人としてもホッと一息である。日本代表のパーフォーマンスの評価などは、日本代表を常に追いかけている方々に委ねるべきであろうから、中東サッカーウオッチャーの筆者としてはバーレーン代表について少し考えてみたい。

 マチャラ監督は試合後の会見で「前半にあまりいいプレーができなかったことが大きな敗因。理由はよくわからないが、選手達が日本代表に過大なリスペクトを持ってピッチに出てしまった。」「日本代表は自らチャンスを演出することは少なかったが、我々のミスが彼らを助けてしまった。中村俊輔のFKが決まって、0-1となったとき以降、日本は試合をさらによく支配し、我々のスピリットはさらにかき乱された」と精神面の脆(もろ)さを主な敗因に挙げている。

 3月の対戦時(W杯アジア3次予選:バーレーン1-0日本)とは異なり、日本代表のメンバーリストにずらりと並んだ欧州組などが試合前から心理的プレシッシャーをかけたのであろうか。あるいは「今回はバーレーンに勝機が大いにアリ」というアラブ系メディアの報道がかえってあだになったのか。

 筆者がこの試合でバーレーン代表に感じたのは、フィジカルコンディションの極端な低さである。今年のゲームの中では最悪だったのではないだろうか。前半25分過ぎから彼らの体は見るからに重そうだった。気温30度を遥かに超える過酷な気候条件の中、より苦しそうにプレーしていたのがバーレーン代表で、それはまるで気候に慣れていないアウェーのチームのように、筆者には見えた。2点、3点ビハインドを背負った局面で日本代表が時間稼ぎのボール回しをしても積極的に動いてボールを取りにいこうとしなかったのも気になった。マチャラのいう精神的弱さも手伝っているのだろうが、やはり見逃せないものがある。そう、ラマダンだ。

 ラマダンはイスラム暦の第9月のことで、この月の日の出から日没までは断食しなければならない。バーレーンでは9月1日より断食月にはいり、試合の9月6日はラマダンの6日目ということになる。大学の学生などを観察していても、ラマダン開始から10日くらいは頭脳労働とはいえ、かなりつらそうにしているものが多く、平均すると10日くらいでなれてくるようだ。はっきりいって個人差が大きく、かえって頭脳がさえわたって快調そのものの人もいれば、ラマダン中は休暇をとるのが恒例になっている知人もいる。

 それが90分間走り回るスポーツの場合はなれるのに何日かかるのか、ちょっと想像もつかない。おそらくラマダン中というのは、(さらに現在のように高温多湿な状況下で)サッカーのような激しいスポーツをこなすのは極めて危険なのではないだろうか。

 

japan-bahrain 

 

 日の出から飲食を断ち、日没まで何も食べずに過ごす。現在は断食の解除が午後6時前後になる。これは宗派によって異なり、スンニー派の方がシーア派より少し早い。その時間にイフタール(断食明けのブレックファスト)を食べ(一気に大量に食べるのは危険なので、普通は少量なのだが、果たして選手たちはどうなのか。後半ガス欠の選手も目立ったのでやはり少ないのでは?)、少し休んで軽くアップして午後9時半のキックオフに間に合わせるのか? それともアップは空腹やのどの渇きならびに疲労が絶頂に達する午後3時か4時頃にしておくのか? いずれにせよ普段とは全く違う肉体条件の下、ゲームをしなければならないことになる。

 ラマダンの6日目で選手の肉体がサッカーをきちんとプレーできるほど馴化していたとは、筆者には思えないのだが、いかがであろうか。

 同日に行われた、W杯最終予選の他のカードも録画でみたのだが、カタール-ウズベキスタン、サウジアラビア-イランといったムスリム国家同士の対決は、地力の差やホームアドバンテージはさておき、フィジカルコンディションの大きな差はあまり感じなかった。UAE-北朝鮮はまだ見ていないのだが、UAEがホームでやられたのも同じような問題が(すべてではないにせよ)部分的にはあるのではないだろうか。

 また、ラマダン中は家族や親戚間で相互に訪問したりコーランの朗読などでバーレーン人はかなり忙しく、マチャラや選手が期待したほど客席は埋まらず、圧倒的なホームの雰囲気になっていなかったことも少なからず誤算だったであろう。

 前回コラムにもあるように、バーレーン代表はずっと絶好調を維持してきた。夏の合宿もうまくいき、アブドラ・ファッタイの出場停止くらいしか不安要素はなかったはずなのだが…。勝負のあやといってしまえばそれまでだが、筆者にはラマダンという避けては通れないイスラム教徒の重要な行事が、不調続きの日本にとっては神風になった気がしてしょうがない。
 このあたりの難しさが、まさに「アラーの国のフットボール」なのである。

※写真はバーレーンの選手の厳しいチェックを受ける田中達(撮影・鹿野芳博)

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コメント (15)

男はつらいよさん

男はつらいよさん (25)

2008/09/09 12:08

それは、分析ではなく言い訳ですね。マチャラ監督でさえ、そのような発言はしていないのではないですか?

サイトヲさん

サイトヲさん (1)

2008/09/09 13:41

私も先日の試合を見ていて、ラマダーンの影響を真っ先に疑いました。
サウジに滞在していた時に、ラマダーンの断食(サウム)に付き合わされたことが何度かあるのですが、
夕方の断食明け直前の時間帯には立ちくらみを覚えるほど辛い経験でした。
この時間帯には、ほとんどのドライバーが空腹と渇きで苛立っている上に、早くイフタールにありつこうと家路に急ごうとするので車の運転も目に見えて荒くなり、普段以上に命がけの運転を強いられます。
私の実体験から言わせてもらえば、普通の生活さえしんどくなるのに、サッカーに影響が出ないわけがないと思います。

いちおう戒律上は、止むを得ない場合は断食期間の振り替えも出来るらしいですが、
ムスリムにとってのサウムは礼拝や巡礼などと並ぶ「五行」の一つとして、信仰の根幹をなすものですから、よほどの不信心者かノンムスリムの帰化選手でない限り、選手も何らかの形でサウムは行っていると思われます。

>>マチャラ監督でさえ、そのような発言はしていない

そりゃ、表立ってそんな発言するわけがないでしょう。(苦笑)
敗因をラマダーンなんかに求めたら、それこそ「イスラームへの冒涜」だとして糾弾され、最悪、国外追放(サウジだったら宗教警察に身柄拘束も??)だってありえない話じゃありません。

海島健さん

海島健さん (2)

2008/09/09 17:01

男はつらいよさん

いつもご愛読ありがとうございます。

バーレーン代表やアル・ムハラクの試合をたくさん見てきたうえでの直感のようなものでして、科学的な分析(選手の走るスピードのデータなど)ではもちろんございません。

ただ、本文にもありますように、ここまでヘロヘロに見えたバーレーン代表は久しぶりで、今年最悪だったのではと疑っています。

アラブ系マスコミはもとより、マチャラ監督やバーレーン代表選手、バーレーンサポーターなどから、「ラマダンだったから、体調わるそうだったね~~」などといった発言が見られないのは、サイトヲさんの説明などにもある事情が関係しています。

ラマダン中には肉体的にも精神的にも負荷がかかりますが、それを乗り越えることに意義があるのであり、日常生活の活動レベルが「ラマダンのせいでおちています」と公言することは潔しとしないところがあります。(実際には、特にラマダンの開始から4-5日は客観的にみても、仕事の能率はガクンとおちるのですが。そして、今回の日本戦はラマダン入り後すぐでした。)

そういった事情がありますので、私のような中間的な立場にある人間がアラブ側の事情をご紹介するのは意義があると考え原稿にしてみました。

海島健さん

海島健さん (2)

2008/09/09 17:22

サイトヲさんへ

ご愛読ありがとうございます。

>敗因をラマダーンなんかに求めたら、それこそ「イスラームへの冒涜」だとして糾弾され、最悪、国外追放(サウジだったら宗教警察に身柄拘束も??)だってありえない話じゃありません。

これはお国柄がでていますね。非常に興味深いです。ラマダン中の厳しさはバーレーンの比ではないのではないでしょうか。高級ホテルでもランチの営業が停止とは驚きです。異教徒は部屋でカップラーメンでもすするしかないですね。

知り合いにラマダン中は毎年公休を取る人(公務員です)がいるのですが、サウジアラビアではありえないでしょうか。

男はつらいよさん

男はつらいよさん (25)

2008/09/09 17:33

私の言いたいことは、ちょっと違うのです。

常識的に考えて、日の出から日没まで食事や水を一切摂れないとしたら、FIFAが世界三大宗教の一つである回教の宗教的行事中にW杯の試合を組む訳がないでしょう。

また、ラマダンでも肉体労働者は断食免除されるとあります。スポーツ選手等は肉体労働者として扱われるのでラマダンといえども断食等はしてないと思うのです。

あと、マチャラ監督はプロですから結果に責任を持ちます。百歩譲って、ラマダンで体調不良だとしても、その事について言及はしないという意味で書いたのですが、サイトヲさんは感情的になっていませんか?

海島健さん

海島健さん (2)

2008/09/09 18:35

FIFAのマッチスケジュールはイスラム圏のラマダンをあまり考慮していないと思います。その辺がイスラム勢の不満でもあるわけです。

FIFAのみならず、イスラム国家を多数抱えているはずのAFCでさえあまり慎重ではないように感じます。今年に限っても、アジアCLの準々決勝はラマダン中です。

代表選手の期間限定ラマダン免除(もちろんあとでその日数分の断食をします)はありえなくはないですが、今回のバーレーン代表はそうではなかった可能性が強そうです。

プーアールさん

プーアールさん (0)

2008/09/14 23:43

海島さん

話を変えますが、カタール対バーレーンはどうでしたか?
私もTVでは観たのですが、非常に多くの雑感を得たゲームでした。

まず、バーレーンに関しては完全にカタチを失った状態で混乱したチーム状態が続いているように想えます。
国民・代表チームが現状の実力を謙虚に自覚して、マチャラの守備戦術のもとにストイックさから生まれる本来の強さを取り戻してほしいですね。
ただし、内容は酷かったにしてもアウェイでの勝点1獲得は今後の明るい材料ですね。

カタールに関しては、もはやカタール代表ではないですね。(グローバル過ぎます。^^)
特に、1トップのウルグアイ人はもはやアジアレベルではありませんね。
中澤・闘莉王の弱点であるスピード勝負に長けた彼を止めるには、無策では無理ですね。
また、確実に1-0で勝てるゲームにおいて前掛かりに攻め続け、10人のバーレーンに追いつかれる失態には、まだアジアの中での勝者のメンタリティは養われていない若いチームである事も窺えました。

海島さんには、どう見えたゲームでしたか?

海島健さん

海島健さん (2)

2008/09/15 01:21

フーアールさんへ

コメントありがとうございました。

>私もTVでは観たのですが、非常に多くの雑感を得たゲームでした

このマニアックなカードが日本で放映されたことにまず乾杯したいと思います。



ただし、内容は酷かったにしてもアウェイでの勝点1獲得は今後の明るい材料ですね。

>バーレーン側からするとまさにおっしゃるとおりでして、たった今出したコラムでもふれています。すごいタイミングでこのコメントをフーアールさんからいただきました。


海島健さん

海島健さん (2)

2008/09/15 01:39

続きです

>カタールに関しては、もはやカタール代表ではないですね。(グローバル過ぎます。^^)
特に、1トップのウルグアイ人はもはやアジアレベルではありませんね。
中澤・闘莉王の弱点であるスピード勝負に長けた彼を止めるには、無策では無理ですね。
また、確実に1-0で勝てるゲームにおいて前掛かりに攻め続け、10人のバーレーンに追いつかれる失態には、まだアジアの中での勝者のメンタリティは養われていない若いチームである事も窺えました。


非常に的を得た洞察だとおもいます。
セバスチャンソリアの先制点の場面は非常に見事な抜け出しで、DFマルズーキは完全に置き去りにされていますね。マルズーキがこのプレーでかなり取り乱したようで、このあとも必死にセバスチャンを抑えようとして、逆にPKを献上し、PK失敗直後のプレーでも2枚目のイエローをもらって退場でした。バーレーンではこのプレーなぜか大うけでしたが、日本のTVとかでも笑っていませんでしたか。

カタールは前半の1-0の結果には満足せず、これをいい機会(数的有利でしたし)とばかり、バーレーンをぼこぼこにしたかったのでしょう。ただ、(カタールが同点においつかれた)失点の場面はバーレーン代表のアフリカ系国籍取得選手3人のコンビネーションが美しく、こちらをほめてあげてもいいかなという気がします。

いずれにせよ、湾岸ライバル同士の意地がぶつかりあった面白い試合でしたし、個人的にはかなり興奮しましたね。

プーアールさん

プーアールさん (0)

2008/09/16 02:19

海島さん

>バーレーンではこのプレーなぜか大うけでしたが、日本のTVとかでも笑っていませんでしたか。

残念ながら、そこまで細かくは取り扱われていなかったようです。
なんとなく、バーレーン贔屓であのゲームを観ていた私にとっては、オイオイ頼むよ~ものでしたが。。。

NHK-BSで放送された事については本当に感謝です。
できれば、ガルフカップも放送してくれればなどと想うのは、私がサッカー馬鹿なだけでしょうが。^^

近隣同士のガチンコ勝負には、ダービーマッチのような独特の雰囲気があり面白いですよね。

海島健さん

海島健さん (2)

2008/09/21 22:36

フーアールさんへ

ガルフ杯、毎回のように非常に盛り上がりますよ。
日本での放映は過去に例がないのでしょうか。

日本代表との対戦が最近あまりないチーム同士ですと、どっちがどっちなんだかわからなくなる危険性もあります。

海島健さん

海島健さん (2)

2009/01/28 20:19

本日のafc.comの記事「稲本と本田がキーと見る両監督」のなかにバーレーン代表監督マチャラのコメントがでており、


「この試合は前回日本代表とプレーした時とは全く異なるものとなるだろう。あの試合はラマダン中だったが、今、我々には新しいプレーヤーがおり、良いパフォーマンスを見せて良い結果を得るべく、できる限りのことをするつもりだ。」


となっていました。これは思わず出た本音ではないかなと思います。これくらいさらりとした言い方ならそれほど「冒涜」といったようなものにもなりませんし。やはり、甚大な影響があるものと考えられます。

プーアールさん

プーアールさん (0)

2009/01/31 17:22

海島さん

おそらく、本文立てられるものとは思いますが、今回のバーレーンはガルフカップ後という事もあって、コンディションが良かったですね。

戦術や戦略での勝負というものは、まず選手が動ける状態である事が絶対条件なのでしょうが、ルーズボールなども全て出足の良いバーレーンが拾っていましたね。

日本国内の論調は敗戦から目を反らすかのように、コンディション不足や控えメンバーでの能力不足による結果として片づけられ、敗戦そのものを重要視していないのが不思議でなりません。

しかし、一方のバーレーンにとってはこの勝利は非常に大きな事だと想います。
約1年間で日本と4度対戦して2勝2敗のイーブンであり、調整さえ上手くいけば互角に戦える事を証明したのですから。

さらに昨年の勝利とは内容が違い、しっかりと勝つべくして勝ったゲームに見えました。
やっぱり、バーレーンは堅守から少ない得点機をものにして守り切るというストイックなスタイルが最も合っていますね。

国内では、この結果を受けての岡田監督更迭の声は意外なほど少なく、まずはこのところの日本サッカーの不振の責任として小野技術委員長の更迭が現実味を帯びてきておりますが、岡田サッカーでは少し体制が整わないとアジアでも勝ちきれないという現実に皆が慣れてしまった事が悲しいですね。

海島健さん

海島健さん (2)

2009/01/31 22:53


フーアールさんへ

ご愛読ありがとうございます
バーレーンのこともよく観察されていますね、非常にうれしく思います。

>おそらく、本文立てられるものとは思いますが、今回のバーレーンはガルフカップ後という事もあって、コンディションが良かったですね。

おっしゃるとうりです。作成中でした。(笑)
コンディション、非常に良かったと思います。ガルフ杯をやってきたのも非常に大きいです。
GL敗退もかえってよかったのですね、バーレーンにとっては。



>>>
しかし、一方のバーレーンにとってはこの勝利は非常に大きな事だと想います。
約1年間で日本と4度対戦して2勝2敗のイーブンであり、調整さえ上手くいけば互角に戦える事を証明したのですから。

TV、新聞、一般のバーレーン人みな大騒ぎです。
この勝利の意味は大きく、そのあたりのレポートが次回SNSです。
日本はバーレーン崩壊を食い止めてくれました。

>>>
さらに昨年の勝利とは内容が違い、しっかりと勝つべくして勝ったゲームに見えました。
やっぱり、バーレーンは堅守から少ない得点機をものにして守り切るというストイックなスタイルが最も合っていますね。

2枚のCBとGKは光りました。
本当に勝つべくしてなんですよね。
そのあたり、やばいですね。
これで、12月末からサウジアラビア(親善試合)、イラク(ガルフ杯)、日本とネームバリューのありそうなところはすべてジャイアントキリングを達成。クウェートに足元をすくわれたりはしていますが、日本やオージーにとって不気味な存在にはかわりありません。

興味深いコメントありがとうございました。

海島健さん

海島健さん (2)

2009/02/01 18:37

明日(2月2日)に今回のバーレーン1-0日本のコラムをアップする予定です。


どうぞご利用ください。



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