後藤新弥の「おやじ冒険談」

<スポーツ&アドベンチャー!>宙に浮いてる!?


後藤新弥さん

後藤新弥さん (1)

2008/04/04 20:22

 足元の雪がいつ崩れ落ちるか分からない、崩れたらどどーんと谷底だ。きわどい雪庇(せっぴ)の上しか通れる場所がない。やはり少々無謀だったか。悔やんでも遅かった。群馬県草津の本白根山(もとしらねさん=2171メートル)へ遊びに行った。標高はたいしたことないが、樹木が密生して夏はこのピークに登れないという。「冬しか行けない」と聞いて功名心に駆られてしまった。

2時間でピーク

 寒さが和らぐのを待って、どこか雪の山に行こうと思っていた。少しは歯応えがほしいが、楽もしたい。
 アウトドアの達人、越谷英雄さん(61=ICI石井スポーツ)に相談したら「本白根なら万座側からも草津側からもスキー場のリフトやロープウエーで接近できる。2時間足らずでピークに立てますよ」。そこにしよう。有名な「雪の季節しか登れない山」だ。

 スキー場の上を回り込んで尾根に取り付いた。スキーを木陰に隠してスノーシューを履いたが、それでもズボッ、ズボッ。30~50センチも雪に潜り込む。汗と鼻水で顔がぐちゃぐちゃだ。
 リフトで一気に高度を稼いだ。体が高度に慣れていないのにいきなり動きだしたから、余計に酸素不足が体にこたえる。楽をした罰が当たったのだ。

 

 

 ☆

最高峰はどこ?

 酸素が回らないから、尾根に出たところで頭のGPSが故障した。白根山一帯はほぼ2000メートルのピークがたくさんあるので、どれが目指す最高峰2171メートルなのか、よく分からない。こっちか、いや違う。3回ぐるぐる回って、やっとかすかな踏み跡を見つけた。道がないから雪山は怖い。

 

 そこから恐怖の雪中行軍が始まった。西側の斜面は緩やかだが背の低い針葉樹が密生し、スノーシューが引っ掛かって通れない。東側は切れ落ちている。極細の尾根に、断続的に2メートルを超す雪の壁ができている。
 乗り越えなければ先に進めない。でも、足場がない。スノーシューを蹴り込んでも、ストックを差し込んでも、壁はふかふかの新雪だからすぐに崩れる。垂直の犬かき泳ぎでもがいた。

 

 ジャンプして体当たり。めり込んだ部分に肩まで腕を突っ込んで、なんとかはい上がった。息も上がった。パンツの中を汗が伝い落ちて、気持ちが悪い。全身雪まみれだ。その汗が、次の瞬間凍り付いた。
 下を見たら、自分が空中に突き出ている。夢中になって泳いでいるうちに、雪庇の上を歩いていたのだ。尾根に強風が当たると、その風下側に雪が張り出して、屋根の庇(ひさし)のようになる。知らずに踏み抜く遭難事故が後を絶たない。雪崩でも起こしたらえらいことになる。かといって通る場所はほかにない。

 

 

 ☆

危険個所約100メートル

 危険個所は約100メートル。祈りながら通過した。山の神にざんげして通過した。「今朝、家内の財布から5000円盗みました。お許しください」。緊張感はすさまじかった。
 スキーを履いてないとリフトに乗れないことがある。白根火山ロープウェイの降り口では入山届が必要、植生保護に十分留意などの心得が必要だが、上り約2時間。ピークに立った時は地球を征服したかのような感動だった。あたり一帯、ここより高い峰はない。

 

 へん、これで威張れるぜ。「ちょっと雪山歩きを楽しみました」。さりげなく言おう。この安っぽい優越感こそ、人を山に通わせる原動力なのだ。
 そして限りなく、危険でもある。次は盗みも、バラ銭だけにしよう。

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