冒険教授・後藤新弥の「おやじ冒険談」

<スポーツ&アドベンチャー!>御嶽山に「幻の百間滝」を見た


後藤新弥さん

後藤新弥さん (1)

2008/11/07 12:51

 凜(りん)として貴婦人のようにつつましく、美しかった。長野県御嶽山(3067メートル)の深奥部、王滝川源流の「百間滝」を探索に行った。地元でも存在すら知られていない秘滝だ。写真家の和合正さん(67=岐阜県下呂市在住)の案内で深い樹林帯をはい、幾つもの谷を渡って苦闘5時間。ついに見た、幻の滝。これでまた自慢の種が増えたと狂喜した。帰り道で骨折するまでの、あまりにも短い幸せではあった。 道などない。市販のガイド地図を広げたら、明らかに間違った位置にマークが付いている。頼りにならない。先輩の登山家に尋ねたら「えっ、しゃっきんだけ? おれもそうだよ」。話にならない。飛騨の滝2000以上を撮り尽くした和合さんですら「この前来たのは5年も昔だ」と、数歩ごとに立ち止まっては辺りを確認していく。

御嶽山の王滝川源流部、標高1950メートル。ついに出合った幻の百間滝。落差100メートル、きぬ擦れのような水音が永遠の時を刻んでいた(撮影・和合正)

☆王滝川の源流部

 濁河温泉から兵衛谷に沿って登った。荒れた沢、朽ちた倒木が散乱する樹林帯。大自然の懐深く入り込んだ実感が、畏(おそ)れとともに胸に迫りくる。道のりは5、6キロだが、標高2000メートルの県境尾根を東の岐阜県側から越えた時は、出発してからはや5時間が過ぎていた。日没を考えると、引き返す刻限だ。その時かすかに滝の音がした。 飛び出したがけの中腹から先が大きく開けて、白い瀑布(ばくふ)が、幅約150メートル、落差100メートル。幻の百間滝だ。

☆凛とした美しさ

 まるで貴婦人の裸身のようだ。貴婦人の裸体など見たことはないが、きっとこんな風に違いない。気品にあふれ、ありがちな「私が滝よ、有名でしょ」的な俗っぽさがまるでない。飛騨の冷気に凜として流れをさらしている。 俗に大きな滝を百間滝と呼ぶ。途中で枝分かれしたシン谷にも、60メートルの美しい百間滝がある。 「しかしこの王滝川の場合は、滝の上が伏流になって水がない。だから沢登りの冒険者も来なければ地元の人もこんな奥には用がない。存在を知っている人は、今ではもう数人だろう」。和合さん自身、言い伝えを聞いて20年前に下流から挑戦したが失敗。数年後に濁河温泉からのルートでようやく発見したそうだ。 まさに秘滝。言葉を失って立ち尽くした。

☆きぬ擦れの水音

冷気に紅葉が映えていた 3年前、一般登山路から標高2775メートルの「日本最高所の滝」を探検したときも、秋の終わり、今ごろだった。すでに氷結が始まっていた。この百間滝の水は火山の内側を通ってくるため、水温は5度前後。冬でも変化は少ないそうだ。 人知れず、きぬ擦れのような水音を周囲の紅葉だけに聞かせ聞かせて、永遠を流れ落ちる白い滝。 おやじの方はとんだ俗物だ。滝がひそかなブームになっている折だ。山雑誌にも載らない滝に行き、仲間の鼻をへし折ろうという野心に満ちていた。我に返ると「やったこれで当分自慢ができる」と狂喜した。汗も一気に吹き飛んだ。 帰路。理屈の上では下りだが、足場の悪さは行きと変わらない。日没を気にしながらも、1歩1歩、慎重に下りた。少なくとも本人は、そのつもりだった。

☆大岩が落下して

濁河温泉から兵衛谷をさかのぼって苦闘5時間 山の神はそうは思わなかったらしい。「少し懲らしめてやりなさい」と、言ったかどうだか。がけを通過中、手を触れた大岩が突然ぐらりと揺れて、落下し始めた。「そんな、ばかな」と叫びながら、寄り切られて土俵際に転落する力士よろしくおやじも転落。胴体だけは何とかよけたが左足を岩につぶされた。 足首骨折、全治2カ月。山にしかられたのだ。 この話、次回。

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