破滅型ギャンブル記者のナルシスト宣言

感動の全プロ競技スプリント篇 /競輪・競艇


2008/05/12 16:58

 順当に北京五輪代表の渡辺一成と北津留翼が決勝に勝ち上がってきた。最初の200㍍TTも渡辺が断トツの10秒388の一番時計。2番目は少し動きに堅さが見られたが、10秒573で北津留。この動き通り、渡辺は足に余裕を見せての、勝ち上がりだったが、北津留は少しバタバタした動きだったが力の違いで圧倒して、当然無傷の2人だった。
 北津留は、「気軽に走るつもりだったけどマニエ(ナショナルチーム監督)が見に来ていて緊張してしまって」と照れ笑い。一方、余裕があるように見えた渡辺だったが、途中で取材に走ると「これ(決勝)が終わるまでは勘弁してください」とぴりぴりムードを漂わせて、ここに駆ける意気込みを全面に押し出していた。



 渡辺と北津留は、ナショナルチームの仲間だとはいえ、別地区で年も違う。ジュニアの時代からエリートコースを歩んできた北津留とは違い、無名校から、競輪学校を経て頭角を現してきた渡辺とは性格もまったく違う。ナショナルチームの合宿でも何度も何度も対戦。北津留は「スプリント力では絶対に渡辺さんの方が上だけど、対戦成績はそんなに差がないはず」と話すようにスプリントという枠内でも互いに負けたくないライバルであることは間違いなかった。


 単純にスプリント力やスピードだけではなく、頭脳的な作戦と高度な走行技術が必要とされるスプリント競技。互いの力が五分なら、展開次第でどっちにころぶかがわからないのが面白い。2人の対戦は、まったくどちらが勝つか予想がつかなかった。しかし、これほどの接戦を演じてくれるとは予想だにしなかった。

 北津留は直前に街道練習で転倒して体調を崩していたし、渡辺は北京五輪代表が決まった7日の時点で全プロ記念競輪とこの競技を欠場するつもりだったからだ。寛仁親王牌の権利がかかるとはいえ、2人とも北京五輪への調整期間で、出場することはない。渡辺は競輪でもあくまでも「ケガをしたくないので安全走行第1」とモチベーションの低さが気になっていた。


 しかし、2人の対戦は完全に本気モードだった。それがもろに伝わってくる1本目(先に2勝したものが勝ち)だった。曇天のはっきりしない、暗くて重いバンクを引き裂くように、残り1周手前で北津留翼が仕掛けた。スプリントで多く見られる「スタンディング」といわれる互いに止まって見えるようにバンク内で止まってするようなけん制すらもない。ゆっくり淡々と周回する中で、一瞬の隙を突いた北津留の会心の一撃だった。

 鬼の形相で、バックストレッチを猛回転で踏み上げていく。競輪界でも1、2を争うスーパーダッシュを誇る渡辺も離れ気味となり、誰が見ても北津留の先着だと思われた。それでも渡辺はあきらめなかった。「翼には絶対に負けたくなかった」とはっきり断言した通り、2センター手前で追いつくと、さらに猛ダッシュで大外を踏み込み、1回転ごとに翼に迫る。翼もいっぱいいっぱいだったが、最後は惰性と意地で踏み直し、ゴール。肉眼ではどちらが先着したか、わからなかった。


 1対1のまさにガチンコ対決。互いの今持っているすべての力を出し尽くして演じた文字通りのデッドヒート。2分に分かれて「ツバサ!」「カズナリ!」と声援を送っていた車券を売っていないのに来てくれた〝真の競輪ファン〟が、興奮しないわけがなかった。記者席でみていた記者が思わず「すげえ~」とうなり声を上げたぐらいなのだからスタンドでゴール前間近で見ていたファンの感動はすごかったと思う。2000人も入っていなかったとは思うが、この名勝負を生で見られたファンは本当にラッキーだったと思う。

 2本目もけっして凡戦ではなかったが、もう勢いが違った。やはり北津留が逃げて、渡辺が追う展開だったが、渡辺の追走には余裕があった。1本目の死にものぐるいの必死さはなかった。ゴール前であっさりとらえて、昨年に続くスプリント連覇を決めた。


 渡辺の終わった後の、あまり見せない満面の笑顔も良かったが、北津留のやることはやったというさわやかな表情も印象的だった。北津留にとっても一本目がすべてだったと思う。もう互いに「北京五輪」一本のムードに入っている。はっきりいって彼らは、「競輪」よりも「五輪」に重きを置いていたのは間違いない。若者にとっては実よりもアスリートとしての誇り、自負心、競技者としてどこまで自分を追い詰められるか、目に見えない極北を見極めたい気持ちの方が強いのだろう。それはそれで素晴らしいと思う。

 でも北津留は「五輪が終わったら、少し休んでナショナルチームを離れて競輪選手としてどこまでやれるか頑張ってみたい」と話した。渡辺は「今は北京のことがいっぱいで先のことは何も考えていない」と多くを語らなかったが、彼らが今の情熱を競輪に注ぎこんで集中できれば、どれだけ強くなるのか。北京後に北津留・渡辺一成時代が来てもおかしくない。そんな気にさせたスプリント決勝戦だった。


 

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